オールトの夕刻台

よんだらあたまがよくなるよ!

なにかとブックカバーをオススメしてくる紀伊國屋の女店員と僕戦記



先日、代々木に足を運んだ。なにか目的があったわけではない。千葉の、いや日本の首都と称しても遜色ない西船橋から総武線であちらこちらを巡るのは僕の楽しみになっているのだ。

それで代々木である。車窓から紀伊國屋書店が見えたので降り立ったのだ。
ちふぁろ、代々木に立つ。呑兵衛しか見受けられないあのド田舎(西船橋)とあまりにかけ離れたオサレさにオドオドしながら歩を進める。みんなこわいかおしてる…

ようやく着いた紀伊國屋。圧巻である。格が違う。偶数階にレジが置かれていないことも意味あることとして享受できそうだ。目をつけてあった数冊を手にレジに並ぶ。

さすがに大手書店ともなると社員教育がなっていてカバーをつける手際の良さには目を見張るものがある。

女店員の「プロ」の御業に見とれながら脇に設置されたしおりを幾本か抜き出して財布にこっそり入れる。こちらも「プロ」の御業である。おそらく気づかれてはいまい。あくまで自然に万札を取り出しながら彼女の作業が終わるのを待つ。

そして、若干の疲労を交々とした営業スマイルで、彼女はこう訊いたのだ。

「参考書の方、カバーはお付けしますでしょうか?」













は?


参考書に、カバー?


なんという、なんということだ。


井の中の蛙、大海で死す


斬新、斬新過ぎだ。



そのクエスチョンは文庫本や単行本にしかカバーをつけない弱小(失礼)書店でしか買い物をした事がない僕には斬新過ぎたのだ。



これが、都会の「「「洗礼」」」か。



面食らう僕に尚も彼女は参考書にカバーをつけるか否か問うてくる。やめろ。やめてくれ。

あ、ちなみに「否か」と「田舎」を掛けたんだけど気付いてくれただろうか。

閑話休題、店員さんが中々質問に答えない僕に怪訝な目を向けてくる。やめろ。やめてくれ。



そもそも参考書にカバーとはどういう風の吹き回しだ。

アレか、これは電車の移動時間やバスの待ち時間などのスキマ時間まで利用しちゃう貪欲な受験生のキミのためのお伺いなのか

それともアレか、参考書のカバーすら傷つけたくない根っからの蒐集癖であるキミのための問いかけか
多分キミは普通に落ちると思うよ。



いや、単語帳やら薄めの解説書やらのものにカバーをつけることに対しては、許容できる。


ただ!彼女が今手にしているのは青チャートだ!



青チャートに、カバーを、アタッッッチ!!!!!



これを無謀と言わずしてなんと言う。

よしんば青チャートをスキマ時間に利用するため電車で開いたとしても、そこにカバーの付け入る隙はない。あの厚さを取り出した時点でバレバレなのだ。

はたまた、この少しやつれた店員はこの無謀さを知っていながら敢えて訊いているというのか。

大都会の大型書店の店員たるもの、この程度の挑戦は織り込み済みだと、そういうのか。

恐ろし過ぎるだろ、代々木。

恐れ入った。もはや脱帽だ。

僕如きではいっかな適う気がしない。

断るのだ。断るのだ。無用の長物を頂いても困るのだ。彼女の勇気には僕の勇気を以てして断ろう。

口を開く。

両者の間に緊張が走る。

いつの間にか体が熱い。
万全に効いているエアコンを少し恨めしく思いながら、喉をこくりと鳴らし、僕の口は確固たる決断を紡ぎ出したのだ。

「あ、じゃ、じゃあお願いします」























ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

ジーザス!ジーザス!!エマージェンシー!!!

コミュニケーション能力が低下するだけの安穏とした生活のせいで、僕は歴戦の様相を呈す女店員の威圧に呑まれてしまったのだ!

これが「「「接客」」」か



悔しいが、見事。僕の負けだ。
吐いた唾は呑めぬ。汚い。
清々しいほどの完敗だ。



受け止めよう。
彼女との健闘をたたえてそのカバーを甘んじて受け止めよう。

僕は潔く、彼女の手によってカバーをかけられた青チャートを受け取った。

こうして静謐が取り出した店内で二人の戦士が微笑んだ。

清々しい笑顔で颯爽と店を出る。

「ありがとうございました!」

こちらこそ、ありがとう。
稀に見る戦いだった。

僕は彼女の顔を忘れないだろう。

ありがとう、ありがとう。

あ、バスきた。くだらんこと考えるのやめよ。。。



ちなみに青チャートのカバーは帰宅後いの一番にゴミ箱にいきました。